東京地方裁判所 昭和36年(ワ)9217号 判決
原告 金山秀子
被告 国
訴訟代理人 家弓吉巳 外三名
第一、主 文
被告は、原告に対し金七〇万一七〇八円及び別紙債権目録(二)記載の金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
第二、当事者双方の求める裁判
原告「主文同旨」及び仮執行宣言
被告「請求棄却。訴訟費用原告負担」
第三、当事者間に争のない事実
一、(保安解雇)原告は、昭和二六年五月四日いわゆる駐留軍労務者として期間の定めなく被告に雇傭され、昭和三〇年二月以降は事務職となり横浜技術廠(以下「YED」という。)相模本廠AIOに勤務していたところ、昭和三一年一〇月一日付で、日本人及びその他の日本国在住者の役務に対する基本契約(日米両国政府間に昭和二六年七月二三日締結。以下「労務基本契約」という。)及び同契約附属協定六九号一条a(3)「前記(1)号記載の活動(作業妨害行為、諜報、軍機保護のための規則違反又はそれらのための企図若しくは準備をなすこと)に従事する者又は前記(2)号記載の団体(後記四の「保安解雇基準a(2)」参照)若しくは会の構成員とアメリカ合衆国の保安上の利益に反して行動をなすとの結論を正当ならしめる程度まで常習的にあるいは密接に連けいすること。」(以下「保安解雇基準a(3)」という。)に該当するとの理由により解雇された。
二、(予備的解雇)相模原渉外労務管理所長(以下「労管所長」という。)は予備的に昭和三八年三月三〇日付文書で原告に対し同年四月二八日限り雇用契約を解除する旨意思表示したが、その後同月二日付文書で右解雇日を同月三〇日限りと訂正告知した。
三、原告に対する上記保安解雇が無効である場合には、原告は、予備的解雇されるまでの間、職種変更により昭和三三年六月一日付で計理士となり、オーデイナンスケミカルオフイス、メンテナンスデイビジヨン、プロダクシヨンスケジユリングアンドアナリシスブランチ、フイナンシアルマネージメントセクシヨンFU#10―レジヤーカードユニツトに属していた筈であつて、被告に対し別紙債権目録(一)記載の賃金債権及び(二)記載の遅延損害金債権を有することになる。
四、なお、原告の夫忍は駐留軍労務者としてYEDに勤務していたが、昭和三〇年一二月一〇日付で、附属協定六九号一条a(2)「アメリカ合衆国の保安に直接的に有害であると認められる政策を継続的に且つ反覆的に採用し若しくは支持する破壊的団体又は会の構成員であること。」(以下「保安解雇基準a(2)」という。)に該当するとして解雇された。
同人は、右保安解雇の効力を争い、右争訟は当庁昭和三三年(ワ)第五五一二号賃金請求事件及び東京高等裁判所昭和三五年(ネ)第一二三九号同控訴事件として係属した結果、同高等裁判所は昭和三七年一〇月二七日忍に対する予備的整理解雇のみを認めて同人に一部敗訴の判決を言渡した。同判決は同年一一月二一日確定したが、その判決理由において、「同人に対する第一次保安解雇の意思表示は労働組合法七条一号に牴触し、労働関係の公序に違反し無効である」旨判示している。
第四、争 点
一、原告の主張
(一) 保安解雇は、次の理由により無効である。
1 原告が保安解雇基準a(3)に該当するという理由は、夫忍に同基準a(2)に該当する事実があるところ、同人の妻たる原告はこれと「密接に連けいする」者に該当するというに尽き、他に格別の理由はない。
しかしながら忍に対し同基準a(2)該当を理由になされた解雇が同人の正当な組合活動を決定的理由とした無効のものであることは、前記確定判決の判示するとおりである。
そうすると、本件解雇当時原告の夫忍はなお被告に雇傭されていたわけであり、本件解雇は同人の正当な組合活動を理由としてその妻を解雇したものであつて、忍に対する関係で労働組合法七条一号の不利益取扱に当り、労使関係の公序に違反するものであるから、原告との間でも当然無効である。
2 仮りに同法七条一号に該当しないとしても、夫の組合活動を理由として妻を解雇することは、組合の活動に対する威嚇であるから、本件解雇は、同条三号の組合の運営に対する支配介入に該当し無効である。
3 仮りに直接前記法条の各号に該当しないとしても、夫を、その正当な組合活動だけの理由で解雇し、さらに追い討ち的に妻を解雇することは、団結権の保障及び不当労働行為制度の趣旨に著るしく反する行為であつて、公序に違反し無効である。
(二) 被告主張の予備的解雇事由は不知。
二、被告の主張
(一) (保安解雇について)保安解雇の理由が原告の夫忍が保安解雇基準a(2)にいう破壊的団体の構成員であつたとの事実のみによるものか否かは明確になし得ないが、本件解雇は米極東第八軍司令官において原告を右基準a(3)に該当するものと判定し、右判定に基づき附属協定に定める手続に従つてなされたものであるから、具体的該当事実の有無にかかわりなく、有効である。
(二) (予備的解雇について)米極東第八軍司令官は、昭和三四年一二月四日労管所長に宛て、作業単位FU#10―レジヤーカードの計理士六名に対し発効日昭和三五年一月二〇日とする人員整理を要求した。労管所長において、新労務基本契約日米両国政府間に昭和三二年九月一八日締結の細目書IH節の規定にしたがい整理該当者を調査した結果によれば、原告は、原職にあれば整理該当者中先任逆順で第六位にあつたから、当然整理解雇に該当するものである。
第五、証拠関係<省略>
第六、争点の判断
一、保安解雇の効力について
労務基本契約及びその付属協定(乙第一、二号証)によれば、駐留軍労務者を保安上危険であるとの理由により解雇する場合、保安解雇基準該当事実の存否に関する最終認定権は米軍に留保され、米軍から右該当事実ありとして解雇を要求された労務者について被告は解雇の措置をとることを義務づけられているのであつて、右基準に該当する客観的事実の存在が明らかでないという理由だけで直ちに保安解雇を無効と断ずることはできないけれども、当時における「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」の一二条五項及び一五条四項の規定によれば、駐留軍労務者の労働関係については日本国の法令によることとなつているから、保安解雇についても労働組合法七条の適用があり、その解雇が不当労働行為に該当するときは、労働関係の公序に反するものとして、無効というべきである。
本件についてみるのに、原告夫婦は駐留軍労務者として共にYEDに勤務していたところ、まず夫の忍が保安解雇基準a(2)該当(破壊的団体の構成員)の理由で解雇され、次いで約一〇カ月後に原告が同基準a(3)該当(破壊的団体又はその構成員と常習的、密接に連けいする者)を理由に解雇されたものであるが、被告において右両名につき前記基準に該当する個別の具体的事実については、なんら主張立証するところがない。そこで、本訴にあらわれた限りで、両名の身分関係や解雇の時期とその解雇理由とを照し合わせて考えると、原告に対する本件保安解雇は、原告が破壊的団体の構成員と目された忍の妻である故をもつて、同人と常習的、密接に連けいする者と認定した結果によるものと推測されても、いたしかたのないところである。
ところで、右忍に対する保安解雇については、前記確定判決において、保安解雇基準該当の具体的事実が認められず、その解雇は同人の組合活動を決定的理由とした労働組合法七条一号に抵触する不当労働行為と判定され、被告との間に右解雇の無効が確定しているから、原告が解雇された当時も、被告と忍との間には雇傭関係が存続していたことになる。右忍に対する解雇を不当労働行為と断じた前記確定判決の判旨から推及すると、原告の夫忍が米軍から保安解雇基準a(2)該当者と目された根拠は極めて薄弱なものであることが推認され、従つて、同人の妻たる原告をもつて同基準a(3)の該当者とする米軍側の認定も、ほとんどその根拠を欠くものと推断せざるを得ない。他方において原告解雇の当時忍において上記解雇を不当として争つていたことは弁論の全趣旨から認められ、前記確定判決において右解雇が不当労働行為と断定されたことから推して、原告を解雇しようとした米軍側の主たる意図は、妻を解雇することによつて忍に物心両面の打撃を与え、同人の解雇反対斗争を抑圧するにあつたものと推認することも、決して不自然とはいえない。
叙上の点を彼此考え合わせると、原告に対する本件保安解雇の決定的理由は、夫忍の組合活動を嫌悪し、その反対斗争を封じて同人の解雇を貫徹しようとするにあつたものと認めるのを相当とするところ、使用者が労働者の組合活動を嫌悪して同じく雇用している同人の妻を解雇することが当該労働者に生計上、精神上不利益を及ぼすことは明らかであるから、被告が原告に対してした本件保安解雇は、夫忍に対して労働組合法七条一号の「不利益な取扱」に該当する不当労働行為を形成するものというべく、被告のかような行為は、夫である忍に対してのみならず、原告との関係においても労働関係の公序に反するものであるから、被告は原告に対し右解雇の有効を主張することは許されない。従つて、原被告間には原告主張の期間なお雇傭関係が継続し、原告は被告に対しその間の賃金債権を有するものというべきである。
二、予備的解雇について
本訴請求は、予備的解雇前の賃金に関するものであるから、予備的解雇の効力については、判断する必要がない。
第七、結 論
以上によれば、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言を付するのは不相当と認め、主文のとおり判決する。
(裁判官 橘喬 吉田良正 三枝信義)
(別紙省略)